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2012年11月3日土曜日

被災したニューヨークを走り回って。

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世界経済の中心といっても過言ではない大都市が未曾有の大災害を被ったとき一体何が起こるのでしょうか。

そのような、机上のみで議論されていた事件が実際に起こってしまいました。

アメリカ第一の都市、ニューヨーク。史上最大規模のハリケーン・サンディが襲来しかなりのダメージを残していきました。

そして今僕は、そのニューヨークにいます。そして被災したこの街を目の当たりにしています。



ハリケーン・サンディは、前回のポストでは「それほどでもないかも」と言っていましたし、規模や風速そのものは確かに日本のそれほどではありませんでした。しかしながら、上陸する時間帯が満潮であることによる高潮の影響や、アメリカという国そのものの体質を無視していた意見であったことを強く恥じます。この国にとっては、あのハリケーンは大災害をもたらすものでした。

そもそもニューヨークには、水害に対する備えがほぼありません。いつか日本、特に東京がいかに水害に配慮されているかを書きたいなぁと思ってはおりますが(まさにこういった土木が僕の専門とするところなので。)、このニューヨークという都市の自然災害、特にハリケーン、に対する準備のなさが露呈した機会だということははっきりと言えるかと思います。

まずは今何が起きているか(あるいは、起きていたか)。僕自身がマンハッタンやその周辺のブルックリン、クイーンズで何が起きているかを僕が撮った写真と共にまとめます。

①停電


ローワーマンハッタン(マンハッタンの南部)はほとんどが停電でした。ニュージャージも一部も勿論そうですし、マンハッタンの東側にあるロングアイランドも停電しているようです。マンハッタンの場合は3日間ほどの間、停電しておりヒーターも充電もできないという状態です。以前ニューヨークでは1977年に大停電が起きましたが、まさにその状態と同じなのでは?と思ってしまいます。信号機もつかないので、交通混乱を引き起こします。夜は当然真っ暗。歩行者や自転車の人にも大変な悪影響を与えますし、実際運転しててとても怖かった…。(ちなみに、前回の大停電のときはベビーブームがやってきたそうですよ…笑 ただこれは都市伝説とも言われていますが。)
自転車にて現地調査をしているので、夕暮れ以降のローワーマンハッタンは暗黒。自動車のライトと自転車のライトのみが頼りです。道端ではここぞとばかりに懐中電灯を売る露店が立ち並び、商魂逞しいなぁなんて思ったり。真っ暗闇のマンハッタンを走れるだなんて予想外も予想外でした。



②交通機関のマヒ


浸水による地下鉄トンネルの被害で、地下鉄は未だに全て動いていません。特にマンハッタン内の地下鉄は北部のみしか動いておらず。ブルックリンやクイーンズなどからの地下鉄によるアクセスは現在のところ不可能です。バスとタクシーが唯一の公共交通機関で、バスはディズニーのアトラクションかと思わされるほどの行列が、タクシーは道端で人が手を挙げて呼び込んでいる状態です。あまりの緊急事態のため、1人乗りよりも複数の乗り合いを政府が推奨するほどです。トンネルは全て浸水し、勿論使用不可能です。トンネルの復旧は本当に大きな問題になるでしょう。
自動車の使用が増えて、停電によって信号機も止まっているので交通渋滞が半端ありません。ニューヨークに長年住んでいた方も、ここまで渋滞したのは見たことがない、とおっしゃっている状況でした。本当に現在は自転車が最強で、New York Timesもそのような記事を書いています(笑)




③ガソリン不足


また、公共交通機関はアテにならないということで、自転車の人気がにわかに高まり始め、自家用車はガソリン不足に悩まされています。多くの人々が自動車を使用し、ガソリン不足が深刻です。僕が宿泊しているホテルの周辺のガソリンスタンドも信じられないほどの行列でした。自動車の行列と、タンクを持った人々の行列です。みんなストレスが溜まっているのでしょう、ののしりあっていました…(汗)警察も出動してこの行列を整理していましたが、警察のおじさんも怒っていて、みんなやっぱりストレスフルなんだろうなぁと。



④浸水


停電など、全ての二次的被害を起こしている元凶はこれでしょう。高潮によって市街地に侵入した海水は、住宅を床上浸水し、電気回路をダメにし、地下通路を全て浸水させ…という、前でまとめた①〜③の現象を引き起こしました。高潮によってビーチの砂は運搬されて市街地に侵入するというケースも。同様に、浸水した沿岸部の地盤がゆるみ、その上の構造物に影響を与えるケースも見かけました。あたかも津波の被害を見ているようでした。ニュージャージーの方は家が流されてしまっていますから、ほぼ津波の被害と同じといっても過言ではないものでしょう。まさかニューヨークでこれを目にするとは思っていませんでした。



⑤強風


強風によって木が倒れたり、建物の一部が吹き飛ぶというケースです。マンハッタン内では少ないような印象を受けましたが、周辺の州やブルックリン、クイーンズでは相当の被害を受けたとのことでした。風速が、すごいですから。
しかしこうやって倒れた木も放置されています。なかなかこういったところの処理は追いついていないのが現実でしょう…。警察や消防は常にてんやわんやでしょうし…。

これらの被害を見ると、強風以外の全ての元凶は「高潮による浸水」であると言えます。ニューヨークはサンディのような大規模ハリケーンを想定していないので、当然ながら高い堤防などは存在しません。ゆえに、準備なし、のところにフル装備した敵がやってきたようなもので、今回のようなとんでもない量の浸水を許し、結果的に多くの二次被害を引き起こしているのでしょう。

一方で日本は正直なところこれらの防災対策がそれなりに十分できているものと思われます。さすが、自然災害大国。今日、サブウェイでサンドイッチを購入した際店員のお兄さんと会話をして、日本から来たことを告げたら「日本は自然災害多いんだよな。地震も台風も!」と言われました。まさに、その自然災害の多さという事実が、日本を強くしているなぁと思います。

しかし今回、真っ暗闇のマンハッタンやガレキの放置された道、交通機関の完全な麻痺を目の当たりにして、ここまで脆弱なのかと思いました。津波と異なり、ある程度の時間的猶予が与えられたハリケーン。それゆえに死傷者は100人を超えたものの思った以上に多いわけではないところはよかったなぁと思います(いや勿論死傷者が出ているのはよくないことです。あくまで、津波に比べてということ。)しかしながらインフラに対して、復旧に3日、それ以上かかったりと、起きうる被害を事前に予測して対策するということが十分に行われていなかったことが問題でしょう。

財政難のアメリカで、改めてインフラ投資に注目が集まるときが来るのでしょうか。それとも、災害が起きたらしょうがないということで、毎回自然の猛威を受け止めてダメージを受けて、毎回復興すればいいという考えなのでしょうか。これからの動向が気になります。


今回、僕が滞在しているブルックリンは、正直なところそこまで大きな被害は受けていません。ただ、二次的な、交通機関の麻痺、携帯電話が使えない、などを3、4日うけてしまったこと(そして現在も続いてはいますが)で、前回の震災で受けたものよりも、ちょっぴりだけストレスフルな被害を受けたなという印象です。浸水してしまった人や家が流されてしまった人に比べれば一笑に付す規模の影響ですし、こんなことを言ってしまうのは不謹慎かもしれません。ですが、ひとりのシビル・エンジニアの卵として、改めて都市空間におけるインフラの重要性を身をもって体験できたことは、今後の研究などにも活かせていけるのではないかと思っています。


今回は被害のまとめでしたが、次回は今回のサンディのケースから学んだいくつかの教訓、そして日本の水害対策について書こうと思っています。

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